病院と介護事業所の違い

副施設長の江頭です。少し長い文になりますので、興味ある方だけお付き合いください。

介護福祉の世界にいると、病院と介護事業所の違いに悩まされることがあります。一般の人から見ると、「何が違うの?」「高齢者を預かっていて対応が違うなんてことがあるの?」と思われる人が多いと思いますが、病院は「体または心を治す場所」であり、介護事業所は「体または心を癒す場所」だと思います。若い人に対してもそうですが、病院にいる間は楽しめるような場所はあまりありません。映画館がある訳でもなく、特別な御馳走が出てくる訳でもなく、ただ病気を治す場所というのが病院です。それに対し介護事業所は、さまざまなレクリエーションがあり、カラオケがあり、大きなお風呂があったり、バイキング方式の御飯がでたり、最近はジムのように体を鍛えるマシンもありと、とにかく一日を楽しんでもらう取り組みでいっぱいです。要するに病院と介護事業所は根本から違うのです。

「一日でも長く生きてもらう」のが病院であり、「一日でも楽しんでもらう」のが介護事業所です。もちろん完璧に住み分けができている訳じゃなく、グレーな部分はありますが、大きな見方としてはこういうことです。

しかしこの大きな違いは時に大きな支障を生む事があります。特に根治ができない状況の最期(看取り期)において顕著です。「最先端の医療でとにかく一日でも長く生きてもらうのか?」「十分な治療は受けなくても一日でも人間らしく生きてもらうのか?」と考えるときに、非常に悩ましい状況になってしまいます。それは「生きる時間」を大切にするのか、「生きている喜び」を大切にするのかという考えにも近い気がします。ただ私は介護事業所の人間ですが、決して病院を否定している訳ではなく、医療により一日でも長く生きることにより大切な人と出会えることもありますし、そんなにバタバタせずに病院のベッドでゆっくりしたいと思う人もいると思います。それはどっちが正しいという問題では無く選択肢があることが重要ですし、その選択を周りが尊重することが一番大事だということです。

よく病院から介護事業所に来られた看護師さんはその違い(選択)についてこれず、家族さんが看取りの時期に病院を選択されず介護事業所(施設)を選ばれたとしても、過度に医療にこだわってしまうケースがあります。これは看護師さんが完全に医師のオーダーのもと動く日本的な医療システムの弊害なのかもしれませんが、介護事業所にとっては結構「あるある」な話です。もっと教育システムとして病院と介護事業所の違いを看護師さんに植え付けておいてほしいと思うんですが、まだまだこの違いが分かっていない看護師さんは大勢います。「医療の専門家として何かをしてあげたい。」「私ができることは医療です。だから何もしないなんてできません。」と力を込めてそのような看護師さんは説明しますが、それは時としてエゴであり、冷静に判断してほしいと思う事がよくあります。

介護士にとっても看取りの場面において、何をしたらいいのかオロオロばかりして、対応に苦慮している姿をよく見ますが、これから在宅もしくは施設で看取る件数が増えると考えられている現状において、何をやればいいのか、何が自分の限界なのか、自分の限界を超えた時にどこに連絡すればいいのかをしっかり頭に入れ、冷静に行動することが大切だと思います。

看護師も介護士もこれからはどこまでが自分の領分なのか、しっかりとした線引きをしなければならなくなっていると感じます。グレーな部分、アナログな部分を今までしっかりと線を引かずにしてしまっていたツケがここにきて溜まってしまい首が回らなくなってきていることもあるのかなと感じます。

医療介護連携、地域包括システムなど、横のつながりを求められている現状ですが、どうしてもそれぞれの持ち分で考えてしまい、本来の主役である本人をないがしろにしている気がします。いまこそ初心に帰り、誰のために働いているのか思い出し、自分の立ち位置を考え直す時期だと考えています。